2013-11-26 譲渡制限株式の売却の方法
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 譲渡制限株式の売却の方法
大阪地裁 平成25年1月31日判決
A社は、株式の譲渡制限の定めがある不動産賃貸等を営む株式会社です。A社の株主であるB氏は、A社の普通株式36万2900株につきC氏との売買契約を締結し、A社に対して、同株式の譲渡の承認を求め、譲渡を承認しないときは、A社又はA社の指定買取人による買取を請求しました。
これに対しA社は、B社に対し、譲渡を承認せず、同株式のうち半分をA社が、残りの指定買取人にD社を指定する旨を通知しました。
以上を含めた経緯を経て、その後A氏は、会社法144条2項に基づき、当該株式の売買価格の決定を裁判所に申し立てました。
2 裁判所の判断
裁判所は、同株式の売買価格については提出されていた鑑定書、裁判所の選任した専門家による鑑定書の合理性を判断し、収益還元法による価格を80%、配当還元法による価格を20%の割合で加重平均した2460円をもって、1株あたりの売買価格と判断しました。
3 解説
(1)株式の譲渡制限と譲渡の方法
株式会社が発行する株式は、本来は自由に譲渡できます。しかし、ほとんどの中小企業では、株式の譲渡を制限し、取締役会や株主総会の承認を要するものと定めています(会社法第139条)。
それは、中小規模の会社においては、株主間の関係が通常は密接な場合が多いため、会社にとって好ましくない人物が株主となることを望まないという考えにも合理性があると考えられているからです。
しかし、この譲渡制限の規定を貫くと、いったん会社に投下した資金の回収の途が閉ざされてしまい妥当ではありません。それで、会社法は、所定の手続によって売却を実現する方法を規定しています。
(2)譲渡の手続のアウトライン
以下、取締役会設置会社を前提に譲渡の手続のアウトラインを申し上げます。なお、全部の手続を正確に網羅しているわけではない点、ご留意ください。
a)会社への承認請求・買取人の指定の請求
株主が、会社に対して、譲渡の相手方・譲渡株式の種類と数を記載し、譲渡の承認を請求し、会社が承認しない場合、会社又は指定買受人による買取を請求します(会社法第136条、138条1号)。
b)取締役会決議と承認不承認の通知
請求を受けた会社は、取締役会の決議で、譲渡を承認するか否か、不承認でかつ会社が買い取らない場合の買受人の指定につき決定します(会社法139条1項本文、140条4項)。
この場合、譲渡承認請求の日から2週間以内に承認するか否かの通知をしなかったときは、株式の譲渡を承認したものとみなされますので、注意が必要です(会社法145条)。
c)買取に関する通知・供託等
会社が株式を買い取るとき、また、買受人を指定する場合には承認請求者に通知をする必要があります。それぞれ通知の期限がありますから注意が必要です。
また、会社・指定買取人が、上記通知に先立ち、会社法施行規則によって算定された株式の金額を供託し、その書面を承認請求者に交付します。
d) 売買価格の決定
会社又は指定買取人が買い取る場合、その売買価格については、通知から20日以内に、承認請求者との協議により定めます(144条1項)。
また、承認請求者、又は会社・指定買取人が、前記20日の期間内に、裁判所に対し、株式の売買価格の決定の申立をすることもできます(144条2項)。本件は、この申立に対して裁判所が示した判断です。
そして、前記期間内に協議が調わず、価格決定の申立がないときは、会社法施行規則によって算定された株式の金額をもって株式の売買価格とされます(144条5項)。
(4)実務上の留意点
今回の解説は、やや細かい手続的な面に及んだものですが、これらを覚えておく必要はありません。押さえておく必要があるのは、会社が株式の譲渡承認の請求を受けた場合、承認不承認の決定や、種々の通知をする期間が定められている上、その期間は意外と短いものである、という点です。
また、譲渡を承認しない場合、供託等の複雑な手続が必要な上、供託すべき金額も法令で算定する必要があります。
それで、会社としては、これらの手続を誤ると承認したものとみなされてしまうリスクを踏まえれば、迅速な対応が重要となる、という点は覚えておくとよいと思われます。
また、この点で、会社法の手続に通じた弁護士などの専門家の助言を速やかに得ることも、大きな怪我を負わないために考えるべきことと思われまsす。
参考ページ:会社法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/kaishahou/index/
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