2012-07-10 商品の機能表示と「商標の使用」
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 商品の機能表示と「商標の使用」
東京地裁 平成23年5月16日判決
パッケージソフトウェアの開発会社であるX社は、「QuickLook」という標章につき、文字及びデザインとして商標登録していました。
一方A社は、自社のコンピュータ及びOSソフトウェア商品(以下、まとめて「A社商品」といいます)に関する表示において「Quick Look」及び「クイックルック」の文字を使用していました。このため、X社がA社に対し、自社の商標を使用して商標権を侵害したとして損害賠償を求めました。
本件においては、主に以下の行為が商標法に定める「商標の使用」にあたるかどうかが争われました。
- ディスプレイ上に「クイックルック」の文字を表示すること
- A社商品のカタログ(書籍及びウェブサイト)において、「QuickLook」の文字を使用すること
2 裁判所の判断
裁判所は、以下のように判断しました。
- 「Quick Look」(クイックルック)との表示は、ファイルを開かずにファイルの内容をすばやくプレビュー表示するというA社商品の機能を表示したものであるにすぎない。
- 需要者は、A社OSソフトウェア商品の出所については、「Quick Look」の表示ではなく、「Mac OS X」の表示をもとにイメージすると考えられる。
- したがって、本件における「Quick Look」及び「クイックルック」の標章の使用は、自他商品識別機能及び出所表示機能を有する態様で使用されたものではなく、「商標」としての使用(商標的使用)とはいえないから、商標権の侵害にはあたらない。
3 解説
(1) 他社の登録商標の使用における留意点
自社の商品やサービスの標章としてではなく、単に機能や品質などについて、ある言葉、図形、記号などを使用したところ、他社から、「自社の商標権を侵害している」などと主張される場合があるかもしれません。あるいは、当該商品の発売前に、そのようなリスクが発見される場合もあります。
このような場合、その使用が商標権の侵害に当たるケースと当たらないケースがあります。この点、実務上はできる限り他社の登録商標と重なる言葉等の使用は回避するほうが好ましいといえますが、やむを得ず使用しなければならない場合も、他社の商標権を侵害する「使用」とは何かを理解しておくことは重要であると思われます。
そこで以下、このような商標法上の「使用」とは何を意味するのかを解説します。
(2) 商標法上の「使用」が争われた過去の例
まず、参考として、商標法上の「使用」が争われた事例の一部をご紹介します。
□ 商標権を侵害する「商標の使用」にあたらないと判断された例
- 「ポパイ」の図柄文字が商標登録されていたところ、著作権者から許諾を得たメーカーが、この図柄をシャツに大きく表示して販売しました。裁判所は、顧客がポパイの絵柄のあるシャツを購入するのはポパイの絵が気に入ったからであり、商品の出所、品質を顧慮したためではなく、「商標の使用」に当らないと判断しました(大阪地裁昭和51年2月24日付判決)。
- おもちゃの名称として「テレビマンガ」が商標登録されていました。一方で、他メーカーが、テレビ漫画「一休さん」の絵とともに標章「テレビまんが」が小さく表示されたカルタを販売しました。裁判所は、このカルタが、一休さんがテレビの漫画に由来することを表示したものにすぎず、他社のカルタと識別する標識として機能していないため、商標の使用には当らないと判断しました(東京地裁昭和55年7月11日判決)。
- レコード等に関して「UNDERTHESUN」が商標登録されていました。一方、ある歌手が同じタイトルのCDアルバムを発売したことが問題となりました。裁判所は、購入者はその歌手のCDタイトルと思って買い、「UNDERTHESUN」の製作元・販売元の表示と思って買うのではないから、商標の使用には当らないと判断しました(大阪地裁昭和51年2月24日付判決)。
- 清涼飲料水につき「オールウエイ」という商標が登録されていました。一方でコカ・コーラの缶の「オールウェイズ」との表記が問題となりました。裁判所は、上記表記が「いつでも」等を意味し、飲みたい気持ちを起こさせるキャッチフレーズの一部であること等を理由に、購入者が、他の商品と識別する機能や、商標権者の商品であると思って買うとはいえないから、商標の使用には当らないと判断しました(東京地裁平成10年7月22日判決)。
□ 商標権を侵害する「商標の使用」にあたると判断された例
- 裁判所は、婦人服販売店が、「十五屋」および「JUGOYA」の標章を看板に付することは、商品との具体的関係において使用されたもので、婦人服・洋品を売る老舗「株式会社十五屋」が出所であると思わせるものであるから、商標の使用に当ると判断しました(名古屋地裁昭和58年1月31日判決)。
- 裁判所は、胸部及び背部に「NBA」とカラー印刷されていたトレーナーにつき、NBAブランドが出所の商品と思わせるものであり、商標の使用に当ると判断しました(大阪地裁平成5年1月13日判決)。
(3)商標権侵害とみなされる「商標の使用」とは
以上のとおり、裁判所は、他社の登録商標と同じ標章を使用することがその登録商標権を侵害するか否かについて判断するにあたっては、その使用方法が、商標の本質的機能である自他商品識別機能及び商品の品質保証機能を有しているかを中心に考慮しています。
この点、本件では、商品の表示箇所や表示方法に注目し、「QuickLook」(クイックルック)の表示が、A社商品の機能の表示にすぎないものであり、X社が関係しているとイメージさせるものではないため、「商標の使用」にはあたらないとの判断がなされたわけです。
(4) 実務上の対応
以上を考えると、他社の登録商標と同じ言葉や記号等を自社の製品の機能、品質、説明や表示に使用する場合には、その表示が、商品の出所を表す標識、また他社商品と識別する標識として解釈される余地をできる限り限局するよう、工夫すべきであると思われます。
例えば以下の各事項に留意できるかもしれません(なお、以下の点をすべて実行すれば商標権侵害を常に回避できるという意味ではない点、ご留意ください。)。
- 自社製品に使用されている本来の商標やブランドを、当該表示と近い位置に配置し、かつ強調する
- 文脈上、明らかに機能や品質の説明であると解釈できるような箇所にのみ使用する
- 明らかな造語やオリジナリティーの強い言葉や記号等は避ける
- 自社製品に使用されている本来の商標やブランドの宣伝活動に努め、これらの知名度をできる限り上げるよう日々努力する
もっとも、前述のとおり商標の使用該当性が多くの裁判例で争われているように、商標の使用該当性については高度な専門的判断を要するものです。また、たとえ裁判において商標権の侵害が認められなくても、多額の裁判費用・労力等多大なコストを要する可能性があります。
このため、自社で調査することに加え、商標権に関する紛争が生じるリスクをできるだけ軽減するために、難しいケースは、弁護士・弁理士等の専門家に相談し、過去の判例等に照らして検討してもらうことも有用といえるでしょう。
参考ページ:商標法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/shouhyou/index/
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