2012-03-08 商品形態模倣行為と不正競争防止法
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 商品形態模倣行為と不正競争防止法
東京地裁 平成22年11月4日判決
本件は、商品Aを販売しているB社が、商品Cを販売したD社に対し、D社の商品Cが、B社の商品Aの形態を模倣したものであり、D社が商品Cを販売した行為は不正競争防止法2条1項3号の不正競争に該当すると主張して、損害賠償請求をした事案です。
2 裁判所の判断
裁判所は、以下のように判断して、B社の請求を認めませんでした。
●商品Cの形態は、D社が企画したものであるとは認められず、同商品の形態は、第三者であるE社においてデザインをしたものであると認められる。
●商品Aは、販売数量・販売金額がわずかであり、その宣伝・広告の方法に鑑みても一般に広く認知された商品とは認められないことに照らすと、D社が、商品Cを購入するに当たり取引上要求される通常の注意を払ったとしても、原告Aの存在を知り商品Cが商品Aの形態を模倣した事実を認識することは困難であった。
●したがって、仮に、商品Cが商品Aの形態を模倣して製造されたものであったとしても、D社は、商品Cの購入時にそれが商品Aの形態を模倣したものであることを知らず、かつ、知らなかったことにつき重大な過失はなかった。
3 解説
(1)商品形態の保護と不正競争防止法
自社の商品の形態が第三者によって模倣されたり、第三者が自社商品と非常によく似た形態の商品を製造販売するといったケースは、想定されうる事態といえます。事業者としては、そのような事態はできる限り是正したいと考えるところでしょう。
この場合、自社商品が意匠登録されていれない場合、又は意匠登録ができないようなケースの場合、自社製品の保護に資する可能性のある法律は、不正競争防止法です。
不正競争防止法は、一定の場合に、他人の商品の形態と類似する商品の製造販売を制限しています。
大きく分けると
- 周知表示混同惹起行為(不正競争防止法2条1項1号)
- 商品形態模倣行為(同法2条1項3号)
の2種類があります。
以前、前者について取り上げましたが、本稿では、後者を取り上げます。
(2)商品形態模倣行為の要件
法2条1項3号は、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡したり、貸し渡したりすることを禁止しています。しかも、前記ア)の周知表示混同惹起行為(2条1項1号)においては、他社の模倣品の販売を差し止めるためには、自社の商品形態が、周知である(需要者の間で広く認識されている)必要があるのに対し、2条1項1号の商品形態模倣行為では、そのような「周知性」を備えている必要はありません。
一般に周知性の立証は大きな困難が伴いますので、商品形態模倣行為に基づく請求はこの点での立証の負担がなく、他社による模倣に制限を課すための有力な手段となり得ます。
他方で、以下の点に注意が必要です。
- 模倣の対象となった自社の商品が最初に販売された日から3年を経過したとき以降は、商品形態模倣行為によって、他社による模倣を禁止することはできない、という時間的制約があります。
- 他方で、2条1項3号が禁止している模倣については、当該模倣品を販売する者に、「故意・重過失」が必要です。つまり、模倣品を販売する他社が、模倣であることを知っていたか、又は、ほんの少し注意を払えば知ることができた(重過失があった)といえる必要があります。この点の立証は、ややハードルが高いといえます。
- この規定は、形態について「デッドコピー」(同一又は実質的に同一のもの)を規制するものであり、形態が似ている(類似)場合まで規制するものではありません。また、「形態」の模倣が対象であり、機能や性能の模倣を規制するものではありません。
- 形態が同じであっても、それが、ある特定の機能を実現するために不可欠な形態である場合には、禁止することができません。
以上のとおり、商品形態模倣行為についても法律上の制約がありますが、が、他社の模倣を差し止める有力な手段ですので、十分検討には値するものと思われます。
他方、他社による自社の商品形態の模倣を差し止める方法は、「周知表示混同惹起行為」「商品形態模倣行為」のうちいずれも一長一短であり、難しい要件や立証が必要な場合があります。それで、具体的事例においてどのような方法が効果的か、又はベターかについては、専門家に相談し判断するのが好ましいといえるでしょう。
参考ページ:不正競争防止法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/fukyouhou/index/
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