2012-01-19 システム開発、職務著作と「法人等の発意」

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1 今回の判例 システム開発、職務著作と「法人等の発意」

知財高裁平成23.3.15判決

 A社(船舶用塗料製造販売会社)の社員であったB氏が、A社在籍中に、かつA社完全子会社のC社出向中に、職務としてシステム開発(船舶情報管理システム。以下「本件システム」)を行いました。

 これは、A社がC社に対し、リース契約・システム開発の業務を委託することに基づいてなされました。

 そしてB氏がA社に対し、本件システムの著作権が、B氏にあることの確認等を求め、訴訟を起こしました。

 B氏の主張のひとつは、A社がB氏に対して本件システムについて何らの開発指示・命令を行うことはなく、B氏が一人で考えてアイデアを具現化して同システムが作られたものであるから、「法人等の発意」はなかったというものでした。

 なお、上の事案紹介は、実際の事案を若干簡略化しています。

 

2  裁判所の判断

 裁判所は、以下のように判断し、B氏の請求を認めませんでした。なお、他の争点もありますが省略し、著作権がB氏に帰属するか否か(特に「法人等の発意」について)の判断のみ取り上げます。

  • 本件システムは、A社の社内稟議を経ての代表者の決裁という明確な発意に基づいて開発が開始された。
  • また、B氏が全額出資する完全子会社であるC社に対して、当該開発業務の委託と必要に応じての資金援助が行われるとともに、追加のプログラムのリース契約等も締結された。
  • C社においても、「新造船受注情報システム」が会社としての事業計画とされていた。
  • 本件システムの作成は、法人としてのC社の発意に基づくものであると認められる。
  • C社において当該開発業務に従事するB氏が、その職務上作成した本件システムのプログラムの著作者は、作成時における契約や勤務規則等の別段の定めがない限り、法人であるC社となる。

 

3 解説

(1)職務著作とその要件

 通常、ある著作物の著作者になるのは、その著作物について現実に創作ををした個人です。

 しかし、会社(法人)等の従業者が、その職務上著作物を創作する場合が多数あります。例えば、会社の従業員が社内資料を作成したり、雑誌社の記者が記事を執筆したりなどがあります。本件のようなコンピュータプログラムについても、著作物となるケースは少なくありません。

 このような場合には、当然法人としては、自身に著作権が帰属しないと業務上困りますので、著作権法は、以下の要件を満たす場合、会社などの法人が著作者になる旨を定めました(著作権法15条)。これを職務著作といいます。

  • その著作物が、当該法人等の発意に基づくものであること
  • 法人等の業務に従事する者が、職務上創作したこと
  • 公表するときには、法人等の名義で公表されること(ただし、プログラムの著作物についてはこの要件は不要)
  • 契約や就業規則に別段の定め(従業員を著作者とする定め等)がないこと
(2)「法人等の発意」と実務上の留意点

 本件での争点の一つは、前記のうち2番目の要件、つまり、B氏が開発したシステムが、A社又はC社の「発意」に基づいたのか否かでした。万一、この要件の充足性が認められず、著作物が個人に帰属してしまうような場合には、その個人が(例えば退職後に)著作権を主張することになると、厄介なことになる可能性があります。

 受託開発などでは、大抵の場合企業間の契約書や発注書などに基づき組織的に開発されますので法人の発意は比較的明確です。他方、社内で何かの制作がなされる場合で、ある社員が発案し、かつ自宅などで制作を行なっており、これを会社が使うといった場合に、後々問題となりかねません。

 本件で、裁判所は、会社から開発過程において具体的な指示や命令がない場合であっても「発意」がないとはいえず、当初の社内稟議によるA社による決裁、A社のC社への資金援助、追加プログラムのリース契約などの事情から、「発意」を肯定しました。また、学説の中には「使用者の意図に反しない程度であればよい」と発意を広く解する説もあります。

 ただ、どんな場合に「発意」が肯定されるのかは、説が様々なので(もっと厳しく見る見解もあるので)、重要なケースでは、常日ごろからできる限り会社の「発意」を裏づける証拠・資料を作り、残しておくことは有益かと思われます。例えば、社内文書やメールなどで、当該制作について、会社の職務として行なっていることと、上司や会社が指示・承認をしたことを残す(制作中でも、あるいは次善の策として完成後でも)、制作について会社にメールなどで適宜報告をさせるようにする、その他「発意」を立証できる資料を確保できるようにしておくといったことが考えられます。

 今回は「発意」について考えましたが、職務著作の要件を意識して、日常、自社の権利の保全に務めることは、自社の利益を守ることになることになると考えられます。



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