2011-09-21 競争者への取引妨害と独占禁止法
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 競争者への取引妨害と独占禁止法
平成23年6月9日 公正取引委員会排除措置命令
ソーシャルゲームの売上では平成22年1月以降1位の位置を占めていたD社は、自社の運営する携帯電話向け交流サイト「Mタウン」において、登録した会員に対し、会員同士で交流できるゲーム(ソーシャルゲーム)を提供していました。
実際の仕組みは、D社と契約したゲーム提供事業者が作成したコンテンツへのリンクが、「Mタウン」に貼られており、登録した会員は、この「Mタウン」のリンクから、各ゲームのコンテンツに入ってゲームをする、というものでした
そして、D社は、有力なゲーム提供事業者に対し、D社のライバルであるG社(売上で2位)が運営するソーシャルサイト「G」にゲームを提供しない場合、ソーシャルゲームの開発又は提供について支援を行うことに加えて、「G」にゲームを提供した事業者のゲームへのリンクを、自社の「Mタウン」に掲載しないことを要請し、実際、その要請に反して「G」にソーシャルゲームを提供した事業者のリンクを外していました。
このD社の行為が、独占禁止法違反とされたわけです。
2 公正取引委員会の判断
公正取引委員会は、主に以下の理由から、D社の行為に対する排除措置命令を出しました。
- D社から告知を受けたゲーム提供事業者の少なくとも過半は、「G」を通じて新たにソーシャルゲームを提供することはしなかった。その中には、「G」を通じて新たにソーシャルゲームを提供するために開発していたところ、自社のソーシャルゲームのリンクが「Mタウン」に掲載されなくなることを避けるため、「G」を通じて新たにソーシャルゲームを提供することを断念した事業者もいた。
- D社の行為により、G社は、D社の要請を受けたソーシャルゲーム提供事業者の少なくとも過半について、「G」を通じて新たにソーシャルゲームを提供させることが困難となっていた。
- D社は、自社と国内において競争関係にあるG社と、ソーシャルゲーム提供事業者とのソーシャルゲームに係る取引を不当に妨害していたものであって、この行為は、不公正な取引方法(公正取引委員会告示第15号)の第14項に該当し、独占禁止法第19条の規定に違反する。
3 解説
(1) 「競争者に対する取引妨害」とは
独占禁止法は、19条で「不公正な取引方法」を禁止しています。そして、独占禁止法2条9項で不公正な取引方法の内容を定め、さらに、公正取引委員会(公取委)は、告示(一般指定)によって、具体的にどんな行為が不公正な取引方法にあたるかを示しています。
本件では、D社の行為は「競争者に対する取引妨害」(独占禁止法2条9項6号ヘ)に該当すると判断されました。
(A)「自己と競争関係にある他の事業者」と「その取引の相手方」との取引について
(B)その取引を不当に妨害すること
その方法は、
(a)契約の成立の阻止
(b)契約の不履行の誘引
(c)その他いかなる方法をもってするかを問わない
独禁法の基本的な考え方は、競合する事業者間で、商品やサービスの、価格、品質、サービスの質などについて競争がなされ、その競争の結果自社が顧客に選ばれるようにするというものが「公正な競争」であるというものです。
それで、競合事業者の取引先に、不当な手段を用いて働きかける等によって、競合事業者とその取引先の取引を妨害することは、競争手段として公正とは認め難いため、「取引妨害」が不公正な取引方法としてとして規制されるわけです。例えば、威圧、誹謗中傷等を用いて競争事業者の取引を妨害する、競合事業者の取引相手に不当な利益を提供して競合事業者から契約を奪い取る、メーカー系列の保守業者が、競合事業者に対し修理部品の供給を拒絶するといったケースが考えられます。
(2) 過去の事例から
会社としては、ビジネスを進めるにあたり、時に競争の激化から、場合によって「競争者に対する取引妨害」に該当するような行為に該当してしまう可能性があります。
例えば、市場において自社の優位性を確保するために構築しようしたビジネススキームが、不公正な取引方法に該当する場合もないとはいえません。それで、会社としては、あるビジネススキームについて問題がある可能性があるのであれば、独占禁止法を扱う弁護士などに相談してチェックを受けることは事業遂行上重要なプロセスとなりえます。
それで、以下、過去の判決例・審決例から、「競争者に対する取引妨害」と判断された事例のごく一部を簡単にご紹介します。参考になれば幸いです。
● 平成16年4月12日 審決
T社は、関連する会社(T2社)が製造する機械式パーキング装置の保守業を営む他の独立系保守業者に対して、合理的理由なく、自社又はT2社が保守契約を締結しているパーキング装置管理業者、所有者等向けの販売価格を著しく上回る価格で販売し、又は部品メーカー等に新たに製造販売を委託する場合の最低発注可能数量を単位として販売することにより、独立系保守業者と、これらパーキング装置の管理業者、所有者等との保守業務の取引を不当に妨害していた。
● 大阪高裁平成5年7月30日判決
エレベーターメーカーであるT1社及びその子会社でT2社の部品を一手に販売しているT3社は、エレベーターの所有者が容易にはそのエレベーターを他社製のそれに交換し難いことからして、部品の常備及び供給は、同エレベーター所有者に対する義務である。そして、供給先がT3社の保守契約先でないからといって、手持ちしている部品の納期を三か月も先に指定することに合理性があるとは到底みられず、不当とされても止むを得ない。
● 平成21年2月16日審判審決
通信カラオケ機器で第一位を占めていたD社は、競合他社のE社との特許紛争に係る和解交渉の決裂を受けて、組織として、E社の事業活動を徹底的に攻撃するとの方針を決定し、D社の子会社をして、その管理楽曲(「ナイト市場」において必要不可欠であると認められる)のE社に対する使用承諾契約の更新を拒絶させ、さらに、通信カラオケ機器の卸売業者等に、E社の通信カラオケ機器ではD社の子会社の管理楽曲が使えなくなる等と告知した。
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