2011-08-23椅子デザインの模倣と応用美術(2)
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 椅子デザインの模倣と応用美術(2)
東京地裁 平成22年11月18日判決
本件は、以前のトピックで取り上げたものです。
本件は、我が国には昭和52年から輸入されていた特徴のある椅子(X社製品)を製造・販売・輸出していたX社と他の1社が、この椅子を模倣した製品を販売しているとして、Y社に対しY社製品の製造販売の差止と損害賠償を請求したものです。
X社の主張は、主に、(1)Y社によるX社製品の著作権侵害の主張、(2)周知な商品等表示であるX社製品の形態を使用する不正競争行為に該当するという主張、でした。
前回では、(1)について取り上げましたので、本稿では(2)について取り上げます。
2 裁判所の判断
裁判所は、以下のとおり判断し、不正競争行為該当性を認めました。
原告製品の形態の周知性について
原告製品の形態の周知性については、
- X社製品の特徴的な形態
- 販売数量の経年的増加
- 新聞や雑誌への広告等の掲載実績
- 宣伝広告記事やパンフレットへのX社の表示の実績
などを考慮し、X社製品の形態は、X社の「商品等表示」として、遅くとも平成17年10月31日までには周知なものになっていた。
その他の判断
以上の認定に基づき、以下のように判断しました。
- X社製品の形態とY社製品は、両製品の共通点を総合判断すれば、類似する。
- 混同のおそれの有無については、両製品の用途(子供用のいす)、主な需要者(小さな子供を持つ親たち)、価格帯の共通性などから、Y社製品に接した需要者が、Y社製品がX社製品(またはX社の関連会社の製品)であると誤信するおそれがある。
- 以上から、Y社製品の製造販売は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当する。
3 解説
(1)商品デザインと周知表示混同惹起行為
意匠登録等されていない製品のデザインについても、法的に保護される(他者に対し類似のデザインの製品の製造販売を禁止できる)場合があります。
この点、不正競争防止法2条1項1号は、「他人の商品等表示として需要者の間で広く認識されているものと同一・類似の商品等表示を使用し、他人の商品または営業と混同を生じさせる行為」を不正競争行為として禁止しています。
具体的には、以下の要件を満たす必要があります。
(a)商品表示性
商品の形態が特徴的で、商品の印(しるし)として機能する必要があります。
(b)周知性
商品の形態が需要者の間で広く認識されている必要があります。
(c)類似性
商品形態が、全体として類似する必要があります。
(d)混同のおそれ
需要者が両者の商品の間で混同を起こすおそれがあることが必要です。
(a)(b)についていえば、商品の形態が特徴的で、かつ需要者(この商品の取引に関わる人々)の間で周知となっており、この特徴的な形態を見れば、特定の事業者の商品であると認識される程度に知られている場合である必要があります。実際に、商品形態の保護が認められた例としては、ルービックキューブ、チョロキュー、iMacなどがあります。
(2) 周知表示混同惹起行為による商品形態の保護と証拠の収集保存
以前のトピックで述べたとおり、商品形態の保護のためには、可能なら意匠登録することが望ましいと考えられます。もっとも、意匠登録にも一定の要件がありますから必ずしも登録ができないようなケースもあるでしょう。
この場合、不正競争防止法による商品形態の保護も検討しなければならない場面が生じるかもしれません。ここで重要となってくる要素の一つは「周知性」の立証です。つまり、訴訟においては、ある商品形態が需要者の間で周知(知られている)ことを立証しなければ成りませんが、そのためには、普段の証拠の収集と保存が大きくものをいうことがあります。
自社の当該製品について、周知性についての主な立証手段としては以下のようなものがあります。
- 販売期間・販売地域の資料
- 売上高の資料
- 宣伝広告費の金額
- 市場シェアの資料
- 販売店数、製品流通量
- 新聞・雑誌・書籍・テレビ・ラジオにおける当該製品が取り上げられた記事(多ければ多いほどよい)
- 宣伝・広告の地域・量・内容に関する資料(多ければ多いほどよい)
- 需要者に対するアンケート調査
以上のような資料は、紛争が生じてから収集できるものもあるかもしれませんが、そうではないものもあるでしょう。そのため、いざ紛争が生じたときに立証手段に窮し、受けられるべき保護が受けられなくなる、といった事態が生じるかもしれません。
この点、普段の業務過程で生じる資料を保存しておくことで、そのような事態をできる限り防ぎ、自社の正当な利益の保護につながることになるかもしれません。
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