2011-06-21 ペ・ヨンジュン事件とパブリシティ権
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1 今回の判例 ペ・ヨンジュン事件とパブリシティ権
東京地裁平成22年10月21日判決
本件は、著名な韓国人俳優であるX氏が、雑誌Aの出版社Y社等に対し、X氏の多数の写真などが掲載された雑誌Aを出版・販売した行為が、X氏の「パブリシティ権」を侵害するものであると主張して、損害賠償を求めた事例です。
2 裁判所の判断
裁判所は、以下のとおり判断し、X氏の損害賠償請求を認めました。
- 雑誌Aの構成は、X氏の来日の際の活動を紹介を中心とし、そのすべてをX氏の氏名、写真、関連記事、関連広告が占めている。
- 雑誌Aのそのほとんどのページに、合計74枚のX氏の写真が掲載されている。
- 表表紙と裏表紙には、X氏の写真が全面に使用され、表表紙にはX氏の氏名が大きく記載。
- 多くのページの全面にX氏の写真が使用され、記事部分があるページもごくわずかか、数分の1である。
- X氏の氏名・肖像は強い顧客吸引力を有すること、雑誌Aが上質の光沢紙を使用したカラーグラビア印刷の雑誌であることなどを併せ考えると、雑誌Aのように表紙及び本文の大部分でX氏の顔や上半身等の写真をページの全面又はほぼ全面にわたって掲載するような態様でのX氏の写真の使用は、X氏の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものと認められ、X氏のパブリシティ権を侵害する。
3 解説
(1)著名人とパブリシティ権
商品・サービスなどの宣伝や、企業のイメージキャラクターに著名人が起用されるケースが世の中に多く見られます。それは、有名人の肖像や名前には人々の注意を引く力があるからであり、これは「顧客吸引力」と呼ばれます。
そして、著名人の氏名や肖像が持つ顧客吸引力が、経済的利益又は価値を持つことから、自己の氏名・肖像から生じる経済的利益・価値を自己が排他的に支配し、無断で第三者に使わせない権利が発生することになります。この権利をパブリシティ権といいます。
この点、第三者が、ある著名人の肖像や名前を自己の商品やサービスに使用することが、当該著名人の許諾を要するものなのか(つまり、許諾なしでの使用が違法となるか)については、多くの裁判例の蓄積があります。
この点、裁判例の多くは、当該著名人の氏名や肖像の使用が、当該著名人の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的としているものか否かで判断しています。
(2)パブリシティ権とビジネス上の留意点
もっとも、ある商品に著名人の氏名や肖像を使用しつつ、「当該著名人の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的としている」とはいえないと判断される余地のあるケースは、ある著名人について扱った出版物といったものに限られるように思われます。
そして、著名人の写真や氏名の使用が、あくまでも商品やビジネスの主たる目的に必要な範囲の副次的・付随的な用途である必要もあり、著名人の写真や氏名の顧客吸引力を利用することが「もっぱら」とまではいえなくとも、主要な目的・用途の一つと考えられるような使用は避けるべきでしょうし、写真についていえば、写真自体が鑑賞の対象になるような写真の使い方も避けるべきでしょう。
したがって、著名人の氏名や肖像の使用においては、仮に争いになって訴訟で勝訴する可能性のある微妙なケースであっても、当該著名人の許諾を受けることを原則とすべきと考えられます。
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