2011-05-24 会社分割と詐害行為取消権
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 会社分割と詐害行為取消権
東京地裁平成22年5月27日判決
リース会社であるX社は、クレープ飲食事業等を営むA社に対し、リース契約に基づく損害賠償債権を有していました。
債務超過であったA社は、会社分割(新設分割)によって、Y社に対し、A社が有するほぼ全ての無担保資産を含むクレープ飲食事業に関する権利義務を承継させ、A社には、会社分割の対価として得たY社発行の株式以外、目ぼしい資産は残りませんでした。また、A社のX社に対する損害賠償債務は、Y社には承継されず、A社に残されました。
以上の状況で、X社が、Y社に対して、上記会社分割が詐害行為に当たるとして、詐害行為取消権に基づき、上記会社分割の取消し及び価額賠償を求めました。
2 裁判所の判断
裁判所は、以下のように判断し、X社に対する損害賠償を命じました。
- 株式会社の新設分割も詐害行為取消権の対象となり得る。
- 本件会社分割は、無資力のA社が、その保有する無担保の残存資産のほとんどをY社(受益者)に承継させるものである。本件では、A社がその対価として交付を受けたY社の設立時発行の全株式は、A社の債権者にとって、保全、財産評価および換価等に著しい困難を伴うものと認められる。
- そのため、本件会社分割により、A社の一般財産としての価値が毀損され、X社等の債権者が弁済を受けることがより困難になったといえるから、本件会社分割はA社の債権者であるX社を害する。
- X社は、Y社に対し、詐害行為取消権に基づき、本件会社分割をX社の債権の額の限度で取り消した上、その価格賠償を求め得る。
3 解説
(1)会社分割とは
会社分割とは、ある会社の営業の全部又は一部を、他の会社に承継させる行為です。何が承継され、何が承継されないかは、原則として、分割計画書又は分割契約書に従って決定されます。
会社分割の方法には、新設分割(既存の会社(分割会社)がその営業の全部又は一部を新たに設立する会社(新設会社)に承継させる分割)と、吸収分割(すでに存在する他の会社(承継会社)に分割会社の営業の全部又は一部を承継させる分割)があります。
(2)詐害行為取消権とは
詐害行為取消権とは、民法424条以下において規定されているもので、ある債務者Aに対して債権を有する債権者Bが、債務者Aの法律行為(売買や金銭貸借その他の契約、その他自己の財産を処分する行為など)を、一定の要件の下に取り消すことができる権利です。
一般に、自己の有する財産をどのように処分するかは所有者の自由であって、その人に対して債権を有する者(債権者)であっても、それに干渉することはできないのが原則です。
しかし例えば、唯一の財産である不動産以外の財産を持っていない債務者Aが、その唯一の不動産を第三者へ贈与してしまった場合、債権者としては債権回収が事実上できなくなってしまうおそれがあります。これが常に許されるとすれば正義公平に反するでしょう。
そのため、債務者の行為(特に財産を流出させる行為)のうち一定の要件を具備している場合に、債権者の保護のために、その行為を「詐害行為」として取消を認め、逸脱した財産を債務者に復帰させるという制度が詐害行為取消権です。
(3)会社分割と詐害行為の可能性
会社分割の法制化後、債務超過の会社の経営再建の一つの方法として、会社分割を活用する事例が増えてきました。
つまり、ある債務超過の会社(A社)が、新設分割を行ってB社を設立します。そして、A社が任意に選択した優良資産、のれん、重要な取引先に対する一部の債務のみを新設分割設立会社(B社)に承継させます。そして、元の会社(A社)に、負債や不良資産のみを残すという事例です。
法律上、分割会社が新設会社の株式を100%持つ場合には、分割前後の分割会社の資産状態は変わらないという理由から、会社分割手続において通常要求される、債権者保護手続は不要であると解されています。それで、債権者の納得を得られなくとも、また、債権者に全く事前事後の説明をせずに会社分割を実行するようなケースがありました。
そして、会社分割の行為については、前述の詐害行為取消権の対象とはされないという考え方もありました。
しかし、本判決が判断したように、会社分割であっても詐害行為となりうるという判断が広くなされるようになれば、少し話は別になってきます。
つまり、会社分割に納得しない債権者が、詐害行為取消権などの権利を行使して、会社分割の効力を争ってくる可能性が高まり、これは一定のリスク要因となることが考えられます。それを考えると、債権者を全く無視して手続を進めることは妥当とはいえないと考えられます。むしろ、債権者に対してスキームの妥当性を説明し、できる限り納得を得るようにすることが、再建にとっては重要な要素ではないかと思われます。
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