4.1 商標権侵害の概要・「使用」の意義
商標権の侵害の概要
商標権侵害とは
商標権者は、設定の登録から10年間の存続期間中(なお存続期間は更新可能です)、指定商品又は指定役務について、当該登録商標を使用する権利を専有します(商標法25条本文)。「役務」とはサービスのことをいいます。
それで、登録商標と同一の商標を、登録商標の指定商品・指定役務と同一の商品や役務に使用する行為は商標権の侵害とされます。のみならず、さらに指定商品・指定役務に類似する商品・役務に、登録商標に類似する商標を使用する行為も、侵害とみなされます。
商標権侵害を考えるための3つの視点
したがって、他人によるある標章の使用が、特定の商標権侵害となるか否かを考えるにあたっては、以下の3つの要素を考える必要があります。本ページでは、商標法上の「使用」の意味について検討します。他の点は、リンク先のページからご覧ください。
- 当該標章の使用が、商標法にいう「使用」に該当するか否か
- 当該標章と、登録商標が類似しているか否か
- 当該標章が使用する商品や役務が、当該登録商標の指定商品・指定役務に類似するか否か
商標法上の「使用」とは
他人の登録商標と類似している標章を使用することが常に商標法上の「使用」に該当するとは限りません。以下商標法が意味するところの「使用」の意味について検討します。
商標法に列挙された「使用」の定義
まず、商標法2条3項は、以下のとおり、商標としての使用が何かを定めています。
(1) 商品または商品の包装に商標を付する行為
まず、「商品に標章を付する行為」とは、商品自体に標章を貼付、刻印、印刷、下札等によって表示することをいいます。この点、コンピュータプログラムについては、プログラムを起動する際などに標章が表示されるようにすることも、商品に標章を付する行為であると考えられています。
また、商品の包装に標章を付する行為とは、商品を入れる包装紙、容器、箱などに標章を印刷その他の方法で表示することをいいます。
さらに、商標法2条4項は、商品自体やその包装を標章の形にすることも、商品や包装に標章を付する行為に含まれるとされます。例えば、化粧品の瓶をある標章の形状にすることなどです。
(2) 商品または商品の包装に商標を付したものを譲渡、引渡し、譲渡または引渡しのために展示、輸出、輸入、電気通信回線を通じて提供する行為
まずここでいう「譲渡」とは、所有権の移転をいい、有償・無償いずれかを問わないと考えられています。また、「引渡」とは商品に対する現実的支配を移転することをいいますので、所有権が移転しないレンタルなども含まれます。
また、「電気通信回線を通じた商品の提供」とは、例えば、インターネットウェブサイトをを通じ、映像、音楽、ソフトウェア等をダウンロードさせたり、ストリーミング提供したり、電子メールに添付して送信する行為などいいいます。
(3) 役務(サービス)の提供にあたり、需要者が利用する物に商標を付する行為や、その物を用いて役務(サービス)を提供したり展示したりする行為
これは、サービスという形のないものの提供に当たって使用する形のある物をいいます。例えば、飲食というサービスを提供する飲食店であれば、食器やグラスに商標を付したり、これらを使用して飲食物を提供する行為がこれに当たります。
また、小売店であれば、売り場の案内板、ショッピングカート・買い物かご、陳列棚、包装紙、買い物袋等があります。
(4) 役務(サービス)の提供にあたり、需要者の物に商標を付する行為
例を挙げれば、クリーニング店で、クリーニングを終えた顧客の洋服に、その店のタグを付する行為が含まれます。
(5) 電磁的方法による映像面を介した役務(サービス)の提供にあたり映像面に商標を表示して役務を提供する行為
例えば、テレビやインターネットウェブサイトの通信販売で、顧客のテレビ画面や端末の画面に表示される映像面に商標を表示するという場合が含まれます。
また、ネットバンキングやオンラインゲームなどで、顧客の端末の画面に表示される映像面に商標を表示する行為も含まれます。
(6) 商品・役務(サービス)に関する広告、価格表、取引書類に商標を付して展示、頒布、電磁的方法によって提供する行為
「広告、価格表、取引書類」については説明するまでもないでしょう。なお広告は媒体を問いません。紙媒体のみならず、看板、ネオンサイン、テレビ広告等も含みます。また、「電磁的方法」とは、インターネットウェブサイト上の広告等を含みます。
また、「商品・役務(サービス)に関する」という記載のとおり、商品等との具体的関係における使用である必要があります。それで、名刺や封筒に、会社自体の名称等を印刷して表示した場合、商品等との具体的関係における使用とはいえない場合が多いと考えられます。
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