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1.4 発明の新規性~特許の実体的要件

以下の検索ボックスを利用して、特許法関連のページから検索できます。

 本稿では、特許が登録される要件のうち、「新規性」について解説します。

「新規性」が必要な理由・趣旨

 特許を受けることができる「発明」には、「新規性」、言い換えれば今までにない「新しいもの」が含まれている必要があります。なぜなら、すでに世の中に知られているような発明に特許によって独占権を与えることは社会にとって害となるからです。

新規性(喪失)の要件

 ある発明に新規性があるか否かについては、以下のいずれかに該当するか否かで判断されます。すなわち、ある発明が以下のいずれにも該当しなければ、新規性があると判断されます。

公然知られた発明(考案)である場合

 具体的には「特許出願前に日本国内又は外国で公然知られた発明」(特許法29条1項1号[条文表示])である場合です。これは、他者に秘密でないものとしてその内容が知られた発明を意味します。

「公然知られた」とは

 「公然知られた」とあると、多数の人に知られる必要があるかのように思うかもしれませんが、この点、発明の内容を知った者の人数は問いません。少数の者が知ったという場合でも、それらの者が守秘義務を持たなければ「公然知られた発明」に該当してしまいます。

 逆にいえば、発明の内容が守秘義務を負っている50人に知られても新規性は失われません。

「公然知られた」の判断時

 これは出願の時点です。したがって、出願後、当該発明を公開しても、新規性は失われません。

学会誌等へ原稿を提出した場合

 では、発明の内容を記載した論文を、学会誌などの原稿として学会の事務局に提出したという場合はいかがでしょうか。

この場合、一般論としては、原稿を受領した段階では不特定の者に知られる状態に置かれるものではなく、かつその事務局が正式の出版のプロセスを経ないうちにその原稿を公開できる立場にはないと考えられますので、その原稿の内容が出版されるまでは、その原稿に記載された発明は「公然知られた発明」には該当しないと考えられます。

公然実施された発明(考案)である場合

 これは、具体的には「特許出願前に日本国内又は外国で公然実施された発明」(特許法29条1項2号[条文表示])である場合です。すなわち、発明が、その内容が公然知られる状況、又は公然知られるおそれのある状況で実施をされたことをいいます。

「公然知られる状況」とは

 「公然知られる状況」とはどんな状況でしょうか。例を挙げれば、ある機械の構造に特許がある場合で、機械の製品が販売されており、当業者(その分野の技術者)が購入して分解すれば、構造が判明してしまう状況にあった場合が挙げられます。また、守秘義務のない者に工場を見学させた場合で、その製造プロセスを見れば当業者なら発明の内容を容易に知ることができるような状況の場合もそうです。

 他方、後者のような状況であっても、外部から見ただけでは発明の内容が分からないような場合、例えば発明の内容が、ある設備の中で行われていて、工場を見学させた際もその設備の中は見せず、見ることを禁止していたという場合は、通常は公然知られる状況とはいえません。

 しかしここで留意すべきは、現実の事実として誰かに実際に知られてか否かは問わない、という点です。客観的状況から見て「公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況」であれば足ります。

「公然知られるおそれのある状況」とは

 「公然知られるおそれのある状況」とはどんな状況でしょうか。前記工場見学の例で考えると、発明の内容が、ある設備の中で行われていて、外部からはすぐには見えなかったものの、見学者がその設備の内部を見ること、又は内部について工場の人に説明してもらうことが可能な状況(工場で拒否しない)が該当する例です。

 しかしここで留意すべきは、現実の事実として誰かに実際に知られてか否かは問わない、という点です。客観的状況から見て「公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況」であれば足ります。

刊行物に記載されている発明(考案)である場合

 これは、具体的には「特許出願前に日本国内又は外国でにおいて頒布された刊行物に記載された発明」(特許法29条1項3号[条文表示])である場合です。

「頒布された」とは

 まず「頒布」されたとは不特定の者が見ることができるような状態に置かれたことをいいます。現実に誰かが見たという事実は要しません。

「刊行物」とは

 また、「刊行物」とは、公衆に対して頒布により公開することを目的に複製された文書と解釈されています。ここには、図面やこれに類する情報伝達媒体(マイクロフィルム、CD-ROM)も含みます。

電気通信回線を通じて利用可能になっている発明(考案)である場合

 この要件は、具体的には「特許出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった発明」(特許法29条1項3号[条文表示])です。この「電気通信回線」は現時点では主にインターネットが念頭に置かれています。

「電気通信回線を通じて公衆に利用可能」とは

 若干細かい要件を見ていくと、まずここの「回線」とは、双方向の通信を伝送するための有線又は無線を意味しています。それで、一方向にしか情報を伝送できない放送は除外されます(もっともこの場合でも「公然知られた」に該当することが多いと考えられます。)。

 また「公衆に利用可能」とは、公衆からのアクセス制限がされていない状態を意味します。それで、企業が発明の情報をインターネット上のサーバーに置いたものの、暗号化され、かつアクセス制限がなされていて守秘義務のある関係者でないとアクセスできない場合、「公衆に利用可能」とはいえません。

地域的基準

 ここで留意すべきは、前記新規性喪失の事由は、いずれも、日本国内だけでなく、外国のどこでもよいということです。

 ですから、うっかり外国で発明を公表してしまったとか、他人の前で実施してしまったという場合、当該外国のみならず、日本においても特許を受けることができなくなります。

例外的な救済事由~新規性喪失の例外

新規性喪失の例外の概要

 以上のとおり、新規性を失った発明は原則として特許となりませんが、一定の場合にはその新規性を失わないものとみなす例外的な救済(新規性喪失の例外)が受けられる可能性があります(特許法第30条)。

 そして、この例外的な救済を受けるためには、新規性を失うに至った日から6か月以内に出願をしなければならないほか、関連して、例外規定の適用を受けたい旨の書面や証明する書面を所定の期間内に提出する必要があります。

例外の適用を受ける原因となる行為

 例外の適用を受ける原因となる行為にはどんなものがあるでしょうか。具体的には以下のとおりです。

(1) 本人の行為で新規性を失ったた場合(特許法30条2項[条文表示]

  例えば以下のような場合です。

  • 試験を行った
  • 刊行物(論文)に発表した
  • インターネット等で発表した
  • 学会発表
  • 製品等の販売・配布
  • 特許庁長官指定の博覧会等へ出品した

(2) 本人の意に反して他人が公表等した(特許法30条1項[条文表示]

 なお、前記(1)については、従前は法に列挙された事由に限定されていましたが、平成24年4月1日施行の特許法改正によって、「特許を受ける権利を有する者の行為に起因して新規性を喪失した発明」に例外の適用が拡大されました。

新規性喪失の例外規定の適用方法

 以下簡単に新規性喪失の例外の適用を受けるための方法を解説します。まず、前述のとおり、発表等をした日から6か月以内に、適用を受ける旨を記載した書面を付して特許出願する必要があります。

 また、新規性喪失事由を証明する書面を、特許出願日から30日以内に特許庁長官に提出します。

 例えば、雑誌での論文発表の場合、(論文誌表紙、該当するページが記載された目次、発表の内容、論文誌の発行日を記載したページ[裏表紙など])のコピー を提出します。この点で発表者と発明者とが異なる場合には、発明者を特定する宣誓書が必要になります。

外国出願との関係での留意点

 以上のとおり、新規性喪失の例外の範囲が日本においては拡大されましたが、その拡大された例外を主張して権利化できるのは日本のみです。そして、この日本での出願に基づき優先権の主張して外国に出願しても、米国を除き、多くの国では新規性なしとして拒絶されてしまう事態になるということは十分想定されます。

 それで、外国出願をする場合はもちろんのこと、そうでなくても、新規性喪失の例外規定に安易に依拠することは避けるべきであり、出願前に発明の新規性を失わないようにすべきことは従前と変わらないと考えられます。

 

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