4.1 原盤権の解説
レコード製作者の権利(原盤権)
原盤権の概要
著作権法は、レコード製作者が有する、著作隣接権の一つとしての「レコード製作者の権利」を定めています。このレコード製作者の権利は「原盤権」といわれています。
なぜレコード製作者にこうした権利が認められているのでしょうか。それは、レコードの販売にあたって必要な原盤(マスターテープ)の制作には、録音作業のコスト(スタジオ使用料、演奏者、歌手の報酬)、ミキシング・マスタリング等の編集の費用(エンジニア料)など、多額な費用が様々発生するからです。つまり、レコード製作者がこのような原盤制作の作業に必要な費用とリスクを負担することのいわば見返りとして、最終的に完成した原盤に関する権利をレコード製作者に与えるというのが原盤権の趣旨です。
著作権との相違
音楽に関しては、著作権と原盤権は全く別の権利です。著作権は楽曲を制作した人が持つ権利であり、作詞、作曲、編曲によって発生する、「歌詞」や「曲」に関する権利です。他方、原盤権は、先のとおり、録音された「音」に関する権利であり、著作権とは別に成立します。
例えば、あるCDの曲をそのままお店で流すなど商用で使用したいとします。この場合、「著作権」については、JASRACに申請すれば通常は足りるのですが、これとは別に、その曲の「原盤権」を持っているレコード会社などから許諾を受ける必要があるということになります。
逆に、自分のお店にバンドを呼んで、ある曲を演奏してもらうとします。この場合には、その曲のCDなどの「音」は使いませんので、原盤権者であるレコード会社などから許諾を受ける必要はなく、「著作権」について、JASRACに申請して許諾を受ければ通常は足りるということになります。
レコード・レコード製作者とは
レコードとは
原盤権の対象となる「レコード」とは何でしょうか。)レコードとは、「蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)」をいいます(著作権法2条1項5号)。
このように、著作権法上の「レコード」は、固定媒体を問わず、固定方法も問いません。また、固定する「音」自体は著作物である必要はありません(海の音、虫や鳥の鳴き声、街のざわめきなどでもよい)。
また、著作権法2条1項5号括弧書で「音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く」とあるとおり、映画の映像に直接音を録音した場合や、テレビゲームのBGMのように、音をもっぱら影像(映像)とともに再生することを目的とするものは、対象となりません。
レコード製作者とは
原盤権を有する「レコード製作者」とは何でしょうか。)レコード製作者とは、レコードに固定されている音を最初に固定した者をいいます(著作権法2条1項6号[カーソルを載せて条文表示])。
もっとも、「固定した者」とは、実際の固定の「作業」を行った者ではありません。むしろ、対外的に契約の当事者となって、自己の計算と責任で音を固定した法的な主体をいいます。それで、原盤の制作を発意し、原盤制作費のすべてを負担した者は、通常はレコード製作者に該当するといえます。
例えば、音楽家が自分でマスターテープを製作してレコード会社に持ち込んだという場合、そのマスターテープの原盤権者はその音楽家となります。他方、レコード会社が、改めてその音楽家に演奏をしてもらいマスターテープに録音した場合、その原盤については、レコード会社がレコード製作者となります。
原盤権の存続期間
存続期間
原盤権の存続期間は、以下のとおりです。
開始時点 原盤を制作した時 (著作権法101条1項2号[カーソルを載せて条文表示])
期間満了 レコード発行日の翌年から50年経過の時(著作権法101条2項2号[カーソルを載せて条文表示])
ただし、その音が最初に固定された日の属する年の翌年から起算して50年を経過するまでの間にレコードが発行されなかったときは、その音が最初に固定された日の属する年の翌年から起算して50年となります。
レコードの「発行」とは
レコードの発行については、著作権法4条の2に定義があり、簡単にいえば、レコードの性質に応じ公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物が、正当に作成され、頒布された場合をいいます[カーソルを載せて条文表示]。
原盤権を構成する権利
著作権が複数の支分権という権利のいわば「束」であるように、原盤権についても複数の支分権で成っています。その支分権は以下のとおりです。
複製権 | そのレコードを複製する権利(著作権法96条[カーソルを載せて条文表示]) |
送信可能化権 | 実演をインターネットなどでインタラクティブ送信(公衆からの求めに応じて自動的に送信すること)できるようにするため、サーバーにアップロードする権利(著作権法96条の2[カーソルを載せて条文表示]) |
商業用レコードの二次使用料を受ける権利 | その実演が適法に録音されている商業用レコード(市販のレコード、 CD 、 LP 、テープ等)が放送や有線放送で使用された場合、放送事業者や有線放送事業者からその使用料(二次使用料)を受ける権利(著作権法97条[カーソルを載せて条文表示]) |
譲渡権 | そのレコードの複製物を公衆へ譲渡する権利(著作権法97条の2[カーソルを載せて条文表示]) |
貸与権等 | 商業用レコードを貸与する権利(著作権法97条の3第1項[カーソルを載せて条文表示])。国内で最初に販売された日から1年を経過した場合は、貸レコード業者から報酬を受ける権利に転化する(著作権法97条の3第3項[カーソルを載せて条文表示]) |
複製権
これは、他者に対し、原盤権者が製作した原盤やこれを複製した媒体に収録された音を無断で複製(コピー)することを禁止できる権利です。
複製方法は問わず、ダビングはもちろん、音楽CDなどを再生して別の媒体に録音することも含まれます。
送信可能化権
これは、他者に対し、原盤権者が製作した原盤やこれを複製した媒体に収録された音を、無断でネットワーク上にアップロードすることを禁止できる権利です。
送信可能化権については、複製権と異なり、私的利用目的による例外規定がありません。それで、市販のCDなどに収録されている音を、無断でインターネットにアップロードすることは許されていません。
譲渡権
これは、他者に対し、原盤権者が製作した原盤から複製した音楽CDなどを、無断で有償または無償で公衆に譲渡することを禁止できる権利です。
譲渡権は最初の適法な譲渡の時に「消尽」します(著作権法26条の2第2項1号[カーソルを載せて条文表示])。そのため、購入した音楽CDを第三者に売るという行為に対しては、レコード製作者がこれを禁止することはできません。
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